別紙 議題草案
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第一章
西洋官制の義は三権の別を主と致しますことにしかるに、法を立候権は、法を行う権と、また法を守る権はない。
法を行う権は法を立てる権と法を守る権とはない。
法を守る権は、法を立てる権と法を行う権とはない。
三権とも皆独立不相によるゆえ、私曲自ら難行、三権各その任を尽くす事、制度の大眼目になる。
右三権の別、こちらにすなわち従来一手に出るゆえ、今にわかにこれにならう義は難く相なる義になれども、今議政院相立ち、これに立法の権ありて、かねて行法の権相属すようにはいわゆる虎に翼にあるが、専檀縦肆後患いかんとも難く測義にあればしばらく古洋法に準じ、守法の権をしばらく相混ぜるとともに、立法行法の権を相判じ、議政院は全国立法の権と相定め、公方様政府は全国行法の権と相定め、守法の権は今しばらくのところ、各国行法の権内にかねる事、右に付きその配当左の通り
第二章
土地経界の儀は現今の通りたるべき事
山城国壱円かねて献貢の通り禁裏御領たるべき事
公儀御領は御代官領市中とも現今の通りたるべき事
諸大名の封地現今の通りたるべき事
第三章 禁裏御領内
公儀御領内、諸大名封境内の政事は、議政院にしかるに立定したる法度に関わらざる丈は、その主勝手に取り治めるべき事
第四章
兵馬戦艦の権は公儀御領は御領限り、諸大名封境内は境内限り、自国防御のため、入り用だけの数を備える事、主の勝手たるべき事
これは当時のところ、擾動ない様今までの通りにしかるに済み置き、数年の後、時運漸定しておき統轄の策ある度事
第五章
臨時兵役は、議政院ならびに公府の会議にしかるに相定めべき事
叛国叛民あるいは海寇応援等の義は、天下の総役に致せど、あるいは一二国の大名に命じども、臨時会議の取り扱いたるべき事
第六章
御領内にして県令治めあたるべきでなく、大名封境内にして治めあたるべきでなく、百姓一揆、家中分党なぞの事相起き、人数百人以上に上る時は、その曲直刑罰は議政院の別に任ずべき事
ただし訴詔は公府の全国事務府へ出れども、裁許は議政院へ移す事
第七章 禁裏の権の事
第一条
鈐定の権
議政院にして議定致す法度は、政府へ移し、政府より禁裏へ上り鈐定を受ける事
ただし異議はありし間は敷く事
右鈐定相済みし上、再び政府へ下り、布告に相なり申すべき事
これは今までの通り、もっとも数年後神武天皇甲寅をもって紀元相はじめ天変地妖等にして改元は廃すべき事
第二条
紀元の権
第三条
尺度量衡の権
これは京都にその座を置く事
もっとも改正の義は議政院にして議定致す事
第四条
神仏両道の長たる権
これも今までの通りの振り合い
もっとも右の事に付き争う案の起きし時は、寺社事務府に托し、改正ありし義は議政院にして議定の事
第五条
叙爵の権
これも今までの振り合い
数年後議政院の法程能わず行われるようであれば、別に日本勲級相立て、有名無実の叙任は廃す事
第六条
高割兵衛を置く権
禁裏御自領にしては、兵馬の備えなくとも、諸大名ならびに公儀御領より万石に付き二人もとの兵卒を調じ、兵事調練の上、諸門の警衛ならびに山城諸口の固めに備える事。
その士官以上は政府より差出し、全国事務府に属し支配を受ける事
もっとも欠員はその国代番差出し、総じての入り用は壱人に付き幾許と議政院にして相定め、度支事務府にして高割を出納する事
総じて右兵衛の外、山城の国内には、壱人にしても兵杖帯び携えるは、出入禁制の事
これは関門を置き、相改める事
諸国よりの使者も皆兵杖を解き、関門内は総じて素袍等相用いる事
第七条
大名より貢献の奉り受ける権
これは時献上の如き物を時節に応じ奉献の事
禁令 公卿殿上人は山城の国より外出叶わぬ事
あるいはこの義勝手次第たりとも御領外にしてはその権平人にひとしき事
御領の人民地下以下諸人は、万事平民と権義同一体の事
第八章 政府の権の事
第八条
政府すなわち全国の公府は公方様すなわち徳川家時の御当代を奉尊奉りむしろこれが元首となし、行法の権はことごとくこの権に属す事
第九条
御領内御政治は、諸藩境内政治の通り議政院にして立定し法度に拘らざる丈は御勝手たるべき事
以下条列致すヶ条は全国上の治体に係わる事
第十条
公方様は総じて内外の政令御沙汰等に大君と奉称する事
第十一条
大君は行法の権の元首と立て、公府を於いて大坂にあられ開き、公府の官僚をうつし置き、天下の大政をなされ行う事
右に付き江戸は御領の政府と相なる事
第十ニ条
全国上公府に関わる賞罰黜陟政令法度は皆大君の御名を奉りて、公府各部の宰相行う事
第十三条
公府の官僚に備わります人名は今までの通り、万石以上以下大小名その器に当たる者御撰任相なる事
ただし宰相にしてすでに撰任の節、別に議政院の議定あれば、その余の官僚黜陟は大君御勝手にあります事
右に付き親藩属藩、江戸府の御役に備わるは御相対と相なる事
第十四条
大君は幾百万石の御領になりえますは上院列座の総頭にして、両院会議に於いて両疑の断案起きます節は、一当三の権をなし持つ事
第十五条
大君は時宜に応じ下院をなさしめ解する権をなし持つ事
もっとも新院の列、撰任は再びその国により致す事
第十六条
公府の官制は左の通り取り極める事
第一 全国事務府、宰相壱員属僚幾員これは以下も同断の事
右は大目附の職そのままにしてなお一二事務の加倍もあるがこの全国大政の出納公府に関わる官吏の黜陟をつかさどる事
第二 外国事務府
当時外国方そのまま
第三 国益事務府
これは全国に係わり、道中宿駅伝馬人足飛脚、国々の礦山、銅座、朱座等鉛鉄の出法、海運水漕の役将また伝信機蒸気車等に至るまでの支配、当時御勘定局へ混入の者振り分けに相なり、この局に属す事
なおまた金銀貨幣座、なお紙鈔等も当時この局へ属すべきなり
第四 度支事務府
これは公府限りの出納算勘相つかさどる官、すなわち公府勘定所にして高割税金を納めこれを議定に準じ分賦致す役
第五 寺社事務府
寺社奉行そのまま、もっとも以後の改革は議政院にある事
右の外学政事務府もなし置くといえども、なお後日の改革に譲りてしかるべき
第十七条
右五府宰臣黜陟の権を大君にある
ただし撰法の節は議政院より三名相撰び差出す上にして、壱名御任に相なる事
自余属僚は議政院別段の議定に準じ、その局の宰相と御相談にして黜陟すべき事
禁令 宰臣は議政院より議定の法令相受ける節、日附断書無きの分は即刻奉行す
遅延は越度たるべき事
銭穀出納等の義はことごとく議政院議定の通り、先期後期とも越度たる事
第九章 大名の権、すなわち議政院の権の事
第十八条
上院は万石以上大名列席、全国に関わり法度評議の上決定致し、大君へ捧する名にて公府各部の宰臣へ送る事
ただし初度総会議の後は、大概大廊下、大広間、溜、帝鑑、雁、柳抔の差等相立ち、その一等より順番にして、二年三年、議政院へ詰める事
これは英国七年一会の例よりも、和蘭など年々順更の制しかるべき、なお会議よく相決しヶ条にする事
第十九条
下院は藩士壱藩壱人宛、その藩上下総名代の名目にして、証書調印相済まし上、院列に列し、上院同様法度議定の事
なおまた更番の後、同人再撰相許すべき事
この方にして上院下院なされ別なれども、目下に彼方の姿には相ならじざるは、明白の義になれども、上院斗にしては会議決めかねる間、下院をもなし置き事しかるべきと奉存ずる
洋制にしては、人口の多寡に準じ総代差出す例にはれど、まさに今封建の治にして左様も相ならず申し、かつ百姓町人も未だ文盲の時には左様相なりかねる間、当時の所姑一藩一名宛総名代といってまかり出かざるべきなり
これは国の大小により総代多寡あるいは声の軽重などあれど、一時には規定相立ち申す間敷き奉存ずる
夫故初度にしては一国壱人にして、後度より規定相立てる様御議定あるべき
ところでまた初度にしても右名代に相立てる上は、自国本院と違うなどの事なき様、証書相取る事にして、その撰任はその藩主に任せ、如何にも世論に叶う輩を撰任あるべき事
ところでまた下院は壱藩壱人その欠員なき様ある事
第二十条
高割税入は、御料禁裏御料は相除きよりも、大名領分よりも、高に準じ差出し、公府の用送に給す事
右多寡年々定額の外に、なお不同あるべき、初度会議の後は、年々歳終に明年の額相定め、格子糸の幉本に相記し、議定の通り、度支府にして取り立てた後、払い出し致すべく事
第二十一条
右上下院とも会議所別にあれども一体の者の事
但し当時の所、創議の権は、公府、上院、下院ともこれを持つ事
これは洋制にしては、上下院は懸隔の別あり、権義も全然異なれども、にわかにその制になす事は難く相なりしに付き、後日の議定に任せ、細目まで追ってして相立つ様議定の事
第二十ニ条
右会議にして致し論定したヶ条大綱は
第一 天下の綱紀制度
封国内部の治はこの限内に無き事
第二 公府高割税入の多寡
第三 臨時の大評議
内外征伐和睦応援等の議定
第四 外邦交際の大法
第五 全国へ関わり、市井令、刑罰令、商売令かねては違反告訴の令議定の事
これは漸次の会議にある事
第六 公府に係わる各部の条令、就中国益事務府に属る貨幣令、ならびに諸般雑令等議定の事
これは公府御開に相なりえるは、目下に無きにしては相立ち申さぬ事
総じて右議政院にして議定致した文中、但書き断書無きの分は全国一統へ係わるようかねての心得の事
右は全国の綱紀に係わる大法にあるところ、我が国歴史上の沿革もあり、人文の化不化、土俗の宜不宜もあり、一朝一夕のゆえに無いのは、一旦にわかに善美の域に至りては可言とも不可行の論に属すこととも、右様大綱相立つ上にしては将来の目的も相立ち、年々の改革も相なる義ゆえ明良相契り、賢能その位を得ては、天下の蒼生雍熙の域に躋り、本邦万国の際に屹立し、称雄干東洋もまた難事にはありし間敷けども、しかしながらただこれにしてすでにしては禍乱底止とも難く申す義にありなお右大法の略稿の外、五港税入、陪臣公官二ヶ条あり、ならびに許多の利害あれども、ここには申さず
参考
慶応3(1867)年11月
西周
西周の政体構想 | 史料にみる日本の近代
※所々言い回しの変更や改行など施しています。