憲法草案要綱
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第一章 根本原則(統治権)
第一条
日本国の統治権は日本国民より発す。
第二条
天皇は国政を親らせず、国政の一切の最高責任者は内閣とす。
第三条
天皇は国民の委任により専ら国家的儀礼を司る。
第四条
天皇の即位は議会の承認を経るものとす。
第五条
摂政を置くは議会の議決による。
第二章 国民権利義務
第六条
国民は法律の前に平等にして出生又は身分に基く一切の差別は之を廃止す。
第七条
爵位・勲章、其の他の栄典は総て廃止す。
第八条
国民の言論・学術・芸術・宗教の自由に妨げる如何なる法令をも発布するを得ず。
第九条
国民は拷問を加へらるることなし。
第十条
国民は国民請願・国民発案、及国民表決の権利を有す。
第十一条
国民は労働の義務を有す。
第十二条
国民は労働に従事し、其の労働に対して報酬を受くるの権利を有す。
第十三条
国民は健康にして文化的水準の生活を営む権利を有す。
第十四条
国民は休息の権利を有す。国家は最高八時間労働の実施勤労者に対する有給休暇制、療養所・社交教養機関の完備をなすべし。
第十五条
国民は老年・疾病、其の他の事情により労働不能に陥りたる場合、生活を保証さる権利を有す。
第十六条
男女は公的並私的に完全に平等の権利を享有す。
第十七条
民族人種による差別を禁ず。
第十八条
国民は民主主義並平和思想に基く人格完成・社会道徳確立、諸民族との協同に努むるの義務を有す。
第三章 議会
第十九条
議会は立法権を掌握す。法律を議決し、歳入及歳出予算を承認し、行政に関する準則を定め、及其の執行を監督す。条約にして立法事項に関するものは其の承認を得るを要す。
第二十条
議会は二院より成る。
第二十一条
第一院は全国一区の大選挙区制により満二十歳以上の男女平等直接秘密選挙(比例代表の主義)によりて、満二十歳以上の者より公選せられたる議員を以て組織され、其の権限は第二院に優先す。
第二十二条
第二院は各種職業並其の中の階層より公選せられたる満二十歳以上の議員を以て組織さる。
第二十三条
第一院に於て二度可決されたる一切の法律案は第二院に於て否決するを得ず。
第二十四条
議会は無休とす。
その休会する場合は常任委員会その職責を代行す。
第二十五条
議会の会議は公開す。秘密会を廃す。
第二十六条
議会は議長並書記官長を選出す。
第二十七条
議会は憲法違反其の他重大なる過失の廉により大臣並官吏に対する公訴を提起するを得。之が審理の為に国事裁判所を設く。
第二十八条
議会は国民投票によりて解散を可決されたるときは直ちに解散すべし。
第二十九条
国民投票により議会の決議を無効ならしむるには有権者の過半数か投票に参加せる場合なるを要す。
第四章 内閣
第三十条
総理大臣は両院議長の推薦によりて決す。
各省大臣国務大臣は総理大臣任命す。
第三十一条
内閣は外に対して国を代表す。
第三十二条
内閣は議会に対し連帯責任を負う。其の職に在るには議会の信任あることを要す。
第三十三条
国民投票によりて不信任を決議されたるときは内閣は其の職を去るべし。
第三十四条
内閣は官吏を任免す。
第三十五条
内閣は国民の名に於て恩赦権を行う。
第三十六条
内閣は法律を執行する為に命令を発す。
第五章 司法
第三十七条
司法権は国民の名により裁判所構成法及陪審法の定むる所により裁判之を行う。
第三十八条
裁判官は独立にして唯法律にのみ服す。
第三十九条
大審院は最高の司法機関にして一切の下級司法機関を監督す。
大審院長は公選とす。国事裁判所長を兼ぬ。
大審院判事は第二院議長の推薦により第二院の承認を経て就任す。
第四十条
行政裁判所長・検事総長は公選とす。
第四十一条
検察官は行政機関より独立す。
第四十二条
無罪の判決を受けたる者に対する国家補償は遺憾なきを期すべし。
第六章 会計及財政
第四十三条
国の歳出・歳入は各会計年度毎に詳細明確に予算に規定し、会計年度の開始前に法律を以て之を定む。
第四十四条
事業会計に就ては毎年事業計画書を提出し議会の承認を経べし。
特別会計は唯事業会計に就てのみ之を設くるを得。
第四十五条
租税を課し税率を変更するは一年毎に法律を以て之を定むべし。
第四十六条
国債其の他予算に定めたるものを除く外国庫の負担となるべき契約は一年毎に議会の承認を経べし。
第四十七条
皇室費は一年毎に議会の承認を経べし。
第四十八条
予算は先ず第一院に提出すべし。其の承認を経たる項目及金額に就ては第二院之を否決するを得ず。
第四十九条
租税の賦課は公正なるべし。苟も消費税を偏重して国民に過重の負担を負はしむるを禁ず。
第五十条
歳入・歳出の決算は速に会計検査院に提出し、其の検査を経たる後、之を次の会計年度に議会に提出し、政府の責任解除を求むべし。
会計検査院の組織及権限は法律を以て之を定む。
会計検査院長は公選とす。
第七章 経済
第五十一条
経済生活は国民各自をして人間に値すべき健全なる生活を為さしむるを目的とし、正義・進歩・平等の原則に適合するを要す。
各人の私有並経済上の自由は此の限界内に於て保障さる。
所有権は同時に公共の権利に役立つべき義務を要す。
第五十二条
土地の分配及利用は総ての国民に健康なる生活を保障し得る如く為さるべし。
寄生的土地所有並封建的小作料は禁止す。
第五十三条
精神的労作・著作者・発明家・芸術家の権利は保護せらるべし。
第五十四条
労働者其の他一切の勤労者の労働条件改善の為の結社並運動の自由は保障せらるべし。
之を制限又は妨害する法令契約及処置は総て禁止す。
第八章 補則
第五十五条
憲法は立法により改正す。但し議員の三分の二以上の出席及出席議員の半数以上の同意あるを要す。
国民請願に基き国民投票を以て憲法の改正を決する場合に於ては有権者の過半数の同意あることを要す。
第五十六条
此の憲法の規定並精神に反する一切の法令及制度は直ちに廃止す。
第五十七条
皇室典範は議会の議を経て定むるを要す。
第五十八条
此の憲法公布後遅くも十年以内に国民授票による新憲法の制定をなすべし。
参考
1945年12月26日
憲法研究會
高野岩三郎、馬場恒吾、杉森孝次郎、森戸辰男、岩淵辰雄、室伏高信、鈴木安蔵
憲法研究会「憲法草案要綱」 1945年12月26日 | 日本国憲法の誕生